経営戦略の定義は、文献により異なる。例えば、有斐閣アルマの経営戦略では、「将来の構想とそれに基づく企業と環境の相互作用の基本的なパターンであり、企業内の人々の意思決定の指針となるもの」と書かれている。また、グロービスのMBAマネジメント・ブックでは、「企業あるいは事業の目的を達成するために、持続的な競争優位を確立すべく構造化されたアクション・プラン」と書かれている。どちらも本質的には同じだと思うが、中小企業の経営において重要なポイントは「捨てる決断」である。
経営者はヒト・モノ・カネ・情報のリソースを自社の事業領域に適切に配分することで利益を生み出す。特に、中小企業の場合はリソースが限られていることもあり事業の取捨選択が重要だ。つまり、限られたリソースを有効に活かすためにどの領域に集中するか、その判断が極めて重要になる。大企業の場合は豊富なリソースがあるうえ、すでに儲ける仕組み(メカニズム)を持っている。したがって、正直なところリソース配分が少々いい加減であっても当面の間は利益を出せる。しかし、多くの中小企業の場合はそのような仕組みを持っていないので、少しでも隙があればと競合他社や大企業から容赦なく攻撃され、いとも簡単に市場を奪われてしまう。
最近、我々は素晴らしい経営者に出会ったので、ぜひその会社の事例を紹介したい。その会社は100年以上続く歴史と伝統を誇る卸売業である。先代も、先々代も、時代の変化に応じて業態を変化させ生き抜いてきた。特に、先代は、当時活況だった商店街の小売店向け事業モデルは近い将来限界が来ることをいち早く察知し、量販的向け事業モデルに変えた。その取引先は、今では売上高1兆円超のIY社、国内最大I社など信頼ある大手量販店だ。一時、その取引額は、この卸売業の売上高の約50%を占めているほどだった。
しかし、品揃え要求、大量の在庫要求、価格要求など大手流通量販店との取引には多くの制約条件が伴う。高度経済成長時期であれば、右肩上がりの取引拡大が期待できるものの、昨今では、厳しい取引条件を維持するだけの利益が確保できない状況に陥っていた。現社長は、過去の成功モデルを維持するか、代替チャネルを獲得できるか、業態転換はできるか等々の悩みを抱えていた。先代から継承したビジネスモデルからの撤退、過去の成功体験を考えれば、新しい事業モデルへの業態転換の決断は難しい。簡単にはできなかっただろう。しかし、現経営者は、この量販的向けビジネスモデルから3年をかけて撤退した。これは大きな決断だった。現在は、コロナによる外出制限の影響を受け、量販店チャネルではこの卸売業が取り扱っていた製品の動きはかなり鈍い。もし、この判断が1年遅かったら大量の在庫を抱え、倒産の可能性もあったと言う。
もちろん、この経営者は撤退の模索だけではなく同時に5年前から新事業と新チャネル開発のトライ&エラーを重ね、次の柱となる事業の種まきをしていた。それが、昨今、ようやく芽が出始めた。しかも、コロナによる外出制限の影響もあり、インターネット直販モデルは前年比120%以上を記録している。
もちろん、我々がコンサルティングに入るということは、別の問題がまだまだあるということではあるが、我々は、この経営者の決断を高く評価し賞賛したい。
冒頭申し上げたように、中小企業はリソースが限られている。その貴重なリソースをどの領域に投入するかは経営者の意思決定に委ねられている。それが、中小企業における経営戦略の最重要ポイントである。
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