良いコンサルタントとは?

良いコンサルタントとはどのような人か。コンサルタントと契約する時は、よくよく吟味して付き合うことが大切だ。我々コンサルタントチームでは、顧客にとって良いコンサルタントとはどのような人物か、とことん話し合うことが多い。長々と議論しても、結局、悪いコンサルタントの典型は、経営者の要求事項をそのまま理解しそれに直球で応えるコンサルタントだ、これが最悪だという結論になることが多い。

それは、なぜか?

経営者からみれば、経営上の問題認識を説明しそれに応えてくれるのだから悪いようには思えない。もしかしたら、丁寧に応えてくれる良いコンサルタントだとも思うかもしれない。

しかし、コンサルタントという職業は、経営者や依頼人が考えていることをまず疑うことから始める癖があるのが普通だ。まず、主張していることが本当か、経営者はなぜそう考えるのか、その原因は何か、その事象の真の原因はなにか、突き詰めていくと・・多くの場合、別の問題が浮かび上がってくる。これを、論理的に整理していくのがコンサルタントである。

もし、経営者が主張する問題の解決方法を考案するだけであれば、楽な仕事である。問題の洗い出しも、問題解決の選択肢の準備も、課題設定も、リスク洗い出しも、その他多々ある考えるプロセスは全部不要だ。まさにコインの裏返しの提案でしかない。

例をあげよう。創業間もない社長とその右腕の人から、コロナでイベントが開催できないので、ECでもっと売上を上げる方法を指導して欲しいというリクエストがあった。彼女の期待は、ECという流通チャネルを通じて、SNSを使って、ブログを使って、SEO対策で、広告費をかけないで・・・等々の小手先の手法のアドバイスだったであろう。または、アフェリエイトの詳細手法、ドロップシッピングの手法、ツイッターやインスタを使った集客方法だったかもしれない。

まともなコンサルタントだったら、これらに応える前にまず聞くことがある。売上計画、仕入れ、受注プロセス、在庫、広告に投資できる予算、出荷までのプロセス、顧客対応、クレーム対応、電話、メール、WEBの更新など・・・かなりの時間をヒアリングに費やすだろう。

よくよく聞けばそれらはほとんど考えられていなかった。受注があったときの具体的なプロセスすらない。もし、同時に数十件も異なる商品の注文があったらどうするのだろうか。創業間もなく経験もなければ、これは不思議なことではない。今後、仕組みを構築していけば良い。

ところが、驚くべきことにあるコンサルタントは「顧客の要望であるEC販促の手法を教えてあげるべきであり、顧客の要求に応えることこそ真のコンサルタントだ、これが私の信念である」と我々に説いたのである。

コンサルタントは、顧客のことを考え、時間をかけてでもヒアリングを行い、経営者が耳を塞ぎたくなるようなことも言わねばならないときもある。表層的な薄い問題らしきことの解決案を提示しても、根本的な問題解決は遠い。

コンサルタントのバイブルである名著ワインバーグの「コンサルタントの道具箱」にはこのように書かれている。

探偵編:私に分析能力がなければ、依頼主の本当のニーズに応える問題解決人ではなく、標準化された出来合いの答えを渡すだけの解決問題人になっていただろう。

イエス・ノーのメダル:イエスという能力、ノーという能力、本心を語る能力、心からイエスと言い、心からノーと言えなければ、依頼主の先入観に迎合し、役に立たないアドバイスをしていただろう。

もちろん、経営者にとって、悩みを聞いてくれ、話相手になってくれる目的のコンサルタントも必要だ。しかし、経営者のいう事をうのみにし、表層的な問題解決という楽な道を選ぶ(気が付かない)コンサルタントとともに歩むことは避けることをお薦めしたい。

参考

「例えば、A事業への進出を考えているクライアントがいて、コンサルタントにA事業への参入戦略を策定する依頼があったとする。しかし、コンサルタントが分析を検討を重ねた結果、そのクライアントにとって、A事業への進出はリスクが多き過ぎてとても推奨できないという判断に至ったとしよう。中略・・・

いくらクライアントが自分で責任を取ると言っても、プロフェッショナルが自らの判断においてクライアントの本当の利益を損なうと思うことは決して提言してはならないのである」

ちくま新書 629 波頭 亮 プロフェッショナル原論 P41から引用