新型コロナウィルス感染防止のため、多くの企業の積極的な事業活動は3月下旬から実質2か月以上停止もしくは停滞してしまった。すべての業種業態の企業がマイナスの影響を受けたわけではないが、影響ゼロの企業は少ないだろう。お客様との取引プロセスや情報交換手法の見直し、社員の通勤やランチ、組織の指示命令など従来通りのプロセスでは対応できず新しいプロセスの試行錯誤に時間を取られた企業も多かった。これらの対応と同時に、運転資金の確保、雇用調整助成金申請書作成などの作業負担も重なり、その苦労は計り知れない。しかし、企業はゴーイングコンサーン(Going Concern)「継続企業の前提」で成り立っており、倒産せず将来にわたりずっと企業活動を継続することが前提だ。今回のパンデミック対策も日頃からの備えが大事であることを痛感させられた経営者も多いだろう。
さて、今日は、情報システム化がうまくいっていなかった企業が、このコロナ対応で、突貫工事的であったものの、思い切ったテレワーク対応ができた例を紹介したい。
関東地方の中小企業A社は、情報システム投資においては、過去多くの失策を重ねていた。身の丈に合っていないアプリケーションソフトウエアの導入、IT投資ポートフォリオの判断ミスなど、残念な投資が多かった。我々は、その立て直しプロジェクトに参画したのである。
しかし、よくある話ではあるが、組織内部には改革抵抗勢力があり、改革推進派の役員も思う通りに進められない。大企業の情報システム投資はトップダウン型のが早く進む。そのシステムを使わないと業務ができない仕組みを導入してしまうので、社員は使わざるを得ない。ITリテラシーも比較的高い社員が多く、いずれ慣れ、文句も言わなくなる。
しかし、中小企業の場合、あまりに急激な情報システム導入は、「ついていけない」と退社する社員が相次いでしまうリスクが高い。最悪の場合、数割の社員は退社してもかまわない、「改革は進める」という不退転の覚悟で進める経営者の判断もありうる。が、その判断はなかなか難しいのが現実だろう。ゆえに、表面上だけでもボトムアップ型、社内調整合意形成プロジェクトで進める方が安全だ。
A社の場合、社内調整合意形成プロジェクトを推し進めてきた改革推進派役員の必死の努力も空しく、最後の土壇場で反対派に現行システム維持改修という方向に舵を取られてしまった。改革には抵抗や反対は必ずある。人間は本能的に変化を嫌う。A社の場合、現行システム改修案を選択すれば、反対派一派は自らの仕事を失うことも無くポジションも安泰だ。推進派は、反対派の兆候を掴み、数々の対策を施してきたが水面下の動きを察知できていなかったのだろう。このような経緯を経て、我々支援チームは、組織内部の冷却期間を取り、リスタートできる状況に回復できるまで待つことを選択した。そのような中、新型コロナ対応の混乱時期に突入してしまった。
さて、社会的に落ち着きを取り戻しつつある時、推進派役員から連絡を受けた。驚いたことに、古典的なハンコ文化と浪花節社風があふれるごく一般的な日本の中小企業であったA社が、テレワークに積極的に取り組んでいたのである。具体的には、役員会議を始め、営業部門会議などはすべてZOOMミーティング、経理総務部門などは半数が在宅テレワーク、ZOOM飲み会も頻繁開催という変わりようだった。勿論、突貫工事的なテレワーク体制への取組ゆえに今後問題も多く出てくるだろう。しかし、習うより慣れろだ。ちょっと考えれば、多くの社員がスマートフォンを使い、自宅ではインターネットを楽しむ時代だ。それらのツールと既存インフラを利用すれば、技術的にテレワークができない理由などはないはずだ。今回のコロナ対応は、A社にとっても組織改革の突破口になることが期待される。
次回「中小企業のテレワーク実現への道 その2」では、中小企業がテレワークに移行する注意点をいくつかお話したい。