ある技術審査会において、3D関連+VR技術+クラウド関連のサービス商品のプレゼンテーションを受けた。プレゼンターである社長は、自社製造のハードウエアも同時に披露し、高い技術力と商品競争力を積極的にアピールしていた。
当社は、以前から米国を中心とする新技術・サービス商品の有料情報を購入している。この社長が熱く説明する商品&サービスは、当社が数年前に紹介を受けたものと酷似していた。ハードウエア外観もソフトウエアの機能もそっくりである。続けて説明を深く聞くと、社長の出身地はアジアのある都市であり、社員数から想像すれば、これらのハードウエア、ソフトウエアを自社で開発するにはリソース確保が難しいと想像できる。あくまでも憶測に過ぎないが、以前紹介を受けた米国製品のコピーである可能性もある。米国のスタートアップ企業は、製造をアジア地区に委託するケースも多く、ハードウエア設計図やソフトウエア情報が漏洩したのかも知れない。
2020年7月2日の日本経済新聞にて、「共同開発で知財トラブル」という記事が掲載された。(知財関連のトラブルは、6月27日の日経新聞でも取り上げられている)この記事のポイントは、中小企業やスタートアップ企業が大企業のオープンイノベーションの呼びかけに応じ、共同開発や協業を開始するものの、最終的には中小企業やスタートアップ企業が泣き寝入りするケースが多いので注意せよという内容である。その概要は以下の通りだ。
- 大手企業から提案された秘密保持契約で締結してしまい、中小企業側の情報が守られない
- 技術検証契約の場合、中小企業側に人件費、研究費用などの対価が払われず、大手企業がやるべきことまでやらされ、持ち出しが多くなり、実質手弁当になってしまう
- 成果の大半を大手企業側が独占し、利益、権利などをもっていかれてしまい、成果の刈り取りができない
- 成果のひとつである特許などの知財申請を大手主導で実施されてしまう
中小企業にとっては、大企業との提携、共同開発、協業は大きなチャンスではある。債権回収の心配も少なく、大手企業が取引先となれば信用力も増す。大企業の営業網、販売チャネルを利用できれば自社売上への貢献は大きいだろう。しかし、共同開発の相手となる部門の担当者が善良で信用できる人であり、共同開発相手である中小企業を最後まで守ってくれる会社風土であるとは限らない。しかも、初期のビジネスシーンでは、これからの期待に胸は膨らみ、お互いに良い結果のイメージしか抱かないものである。たとえ、善良で信頼できる担当者であってもいずれ異動する。後任者はどのような人かもわからない。前任者の異動とともにプロジェクトは解散というケースも多数ある。中小企業とは異なり、大企業では人事異動はごく普通のことだ。このようなリスクを回避するための力になるのは、やはり契約書だ。勿論、契約書がどんなに完璧であっても、大企業には法務部があり、特許担当部署があり、弁護士や弁理士を抱えている。このような大手と対峙する資金、時間、人材は中小企業にはないだろう。そのことも、当然ながら大企業は知っている。
中小企業の知財戦略としては「研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書ver1.0」2020年6月30日発表(https://www.meti.go.jp/press/2020/06/20200630006/20200630006.html)を参考にして、担当者を割り当て、じっくり育成していくことだ。勿論、自治体などの支援機関に支援を仰ぐことも重要だ。
海外に製造委託をすれば情報漏洩リスクがある。大企業と共同開発をすればいいとこ取りされるリスクもある。これらのリスクを想定したうえで、できる限りの対策を考えつつ、積極的にビジネスを進めていくことが必要だろう。
我々のチームメンバーは、中小企業の知財戦略、共同研究開発等の経験者がおります。また、各種支援機関の知財担当部門への相談同行、事前情報整理などもお請けしています。ぜひ、ご相談ください。