優柔不断は常に誤りである

Financial Times  business columnist John Gapper氏のコメントから

2019年10月21日付日経新聞Opinionで掲載された John Gapper 氏のコメントは非常に興味深い内容であった。

「経営者は、自身を嵐の海を進む船の船長である」と例えたのは、ノーベル経済学賞を受賞した米国の心理学者ダニエル・カーネマン氏である。企業経営において経営方針が無い、決まらないという状況は、管理職も含め全社員が困ってしまう。「方針が間違っていたとしても目的地が決まっていればおのずとやることも決まる。ゆえに、経営者は迅速な経営判断が必要である」と述べている。例えば、HSBCで暫定CEOを務めるノエル・クイン氏は「5秒ルール」を用いているそうだ。部下に選択肢の概要をまとめさせ、それを数秒で選択させる。(もちろん、必要なら見直す機会がある)つまり、漂流状態ではなく、いち早く目的地を定めることの重要性を説いている。

昔、当社にコンサルティングの引き合いを持ちかけたあるソフトウエア会社の社長は、多品種のソフトウエアを次々と開発、自社商品化していた。さらに、他社モノの代理店権も次々と獲得、とにかく品揃えを豊富にすることで手一杯の状況だった。目的地はどこなのか?目標は何か?・・・だれもが理解できなかった。焦点とする開発投資や販促対象商品は猫の目のように変わる。もちろん、中小企業であるゆえ、営業リソースは限られ有力な販売チャネルがあるわけでもない。我々は、まず経営方針を固め、目的地を定めることを強く推奨、中期プランを提案したが、意見の相違があり当社のサービスが採用されることは無かった。なお、該社は予想通り4期連続赤字である。

中小企業経営者は、最終的には自らの判断で船の目的地を決めなければならない。中小企業は、大企業と異なり過度な合意形成プロセスや煩雑な手続きなどはないだろう。まずは、自らが腹を括り方針を決めることが重要だ。Gapper 氏は、『あらゆる角度から検討し、慎重かつ断固とした態度で実行したとしても失敗の可能性はあり、それに気が付いた時の後戻りや方針変更は難しいことはわかっている。それでも、方針を迅速に決めるべきだ』と締めくくっている。

企業の成長と情報システム

先日、パート社員を含めると従業員850名に達する中小企業の社長と面談をした。創業社長であり、後継者も決まっている。業績も安定しており、業界は追い風、今後、さらに飛躍できる可能性もあるだろう。我々は、情報化について相談を受けたため、1時間ほど情報システム担当者からシステム概要の説明を受けた。詳細は公開できないが、驚いたのは勤怠管理を手書き申請し、それを責任者が丁寧にOCR用紙に書き写すという工程である。この作業工数を積み上げると膨大な時間になることは容易に想像できる。さて、それをシステム化しない理由を尋ねると、①勤怠時間の不正を責任者が確認できること ➁申請書への記入は1人1日1分もかからない ➂今まで通りで問題ないし、システム化のプロセスも良くわからないということ。

創業時であれば、手書きの勤怠申請は普通だ。しかし、売上拡大に伴い従業員が増えてくれば、それに応じた情報システム化は必須である。本ケースの場合、システム投資効果の定量化は容易であり、働き方改革直結間違いなしである。

やはり、中小企業には情報システムに詳しい参謀が必要である。多くの経営者は経営のプロであるが情報システムのプロではない。情報システムのプロ人材の常勤採用は難しいが、定期的な訪問相談であっても十分な効果を発揮できるはずだ。適切な相談相手が見つからないのであれば、我々のような公平中立、第三者のコンサルティング会社に依頼することも一考である。

※なお、中小企業の定義は、以下の通りです。

業種分類中小企業基本法の定義
製造業その他資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人
卸売業資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人
小売業資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人
サービス業資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人

思った通りの人生と自分の組織

(14歳からの哲学から抜粋、一部引用)

人は何でも思うことができる。これが自由の原点である。人生はつまらないと思えば、つまらないし、人生は素晴らしいものだと思えば人生は素晴らしいものになる。人は思うことで人生の運命を自由に創造することができる。

出版社: トランスビュー (2003/3/20)ISBN-10: 4901510142

中小企業の情報システム部門メンバーと話していると、皆、こういう組織にしたい、情報システムを通じて会社に貢献したい、と思う気持ちを強く感じる。しかし、経営者に直接伝えることはあまりしないようだ。なぜ、そうしないのかの理由は、組織によってまちまちだろうが、この壁を無くさない限り、縁の下の力持ち、安定稼働当たり前、停止すれば評価減という経営陣からの組織イメージから脱却できない。そもそも経営陣で、情報システム部門がどのような仕事をしているのか具体的に知っている経営者は少ないのではないか。

人生を素晴らしいと思うことと同様に自分が所属する情報システム部門を素晴らしい組織にしたいという気持ちを持つことで、理想に一歩前進はできる。しかし、情報システム部門の枠内だけでは限界がある。やはり、経営陣に対して自らの組織の活動状況を理解してもらう努力を怠らず、必要かつ適切なリソースを投入してもらうべきだろう。